概要
2017年発行
特別支援教室・通級指導教室の教員向けに書かれた本です。
はじめに学校内での通級の仕事や役割が書かれていて、
その後に国語・算数の具体的指導が載っています。
また、LD・ADHD・ASDの指導に加え最後には通級運営の具体的方策(保護者との連携・学級運営)の内容もあります。
総じて特別支援教室・通級指導教室での支援の実践、学級運営の実践
として直接仕事に活かせる内容となっています。
専門的な内容も含まれているため、アセスメントや各障害に関するある程度の前提知識は必要となります。
以下「通級」は特別支援教室も含む意味で説明します。また、本の内容に加え私自身の経験と考えも付け加えております。
内容
特別支援教室・通級指導教室とは?
・通級指導教室
平成5年に正式な制度として始まった。
通常の学級に在籍し、通級のある学校に子どもが行く「他校通級」
自分の学校にある通級に通う「自校通級」がある。
情緒障害・ADHD・ASD・LD・言語障害・弱視・難聴・肢体不自由・病弱身体虚弱のある児童生徒が対象。
小中学校に設置されているが、2018年度から高等学校でも制度化。
・特別支援教室
平成17年の中央教育審議会において示されたもの。
通級指導教室とほぼ同じ意味合いで使われるが、拠点校から教員が各学校に巡回して指導するのが基本。児童生徒は学校を移動しないので負担が少ない。
目指す教室環境
通級は少人数の子どもと、何人かの大人が1つの教室に集まります。
通常学級と比べて、手厚い支援が受けられるはずです。
しかし、通常授業から抜けるわけなので「大丈夫かな」と心配するかもしれません。
まずは安心して通級指導を受けられるような楽しい場となる必要があります。
教室では周りに合わせての行動が難しくとも、通級だとその子に合わせて指導内容を調整できます。
上手にコミュニケーションを取りながら、ゲームをしながら、通級の場に慣れるようにしていきましょう。
だんだん慣れてきたところで、本人の困り感にアプローチしていきます。
スモールステップで、「できた!」という自信をつけさせていきます。
物理的な環境の整備を考えると
視覚的に刺激の少ないスッキリとした空間・音の少ない静かな教室をデザインしていくことがおすすめです。
特別支援コーディネーターと校内委員会
特別支援コーディネーターとは、校内での特別支援のマネジメントを行う人物であり
校内委員会は特別支援を必要とする子の支援のありかたを話す場です。
学級担任・通級教員・保護者・学級集団の特徴
様々な視点から、支援の在り方や通級に繋げるかどうかを話し合っていきます。
保護者と子ども、信頼関係づくり
困りを抱える保護者とは、定期的に連絡を取っていきたいです。
学校の様子とおうちの様子を照らし合わせ、両者と子どもの願いを聞き取ることで、支援の方向性も決まってきます。
教員の願いを一方的に話したくなることもあるかもしれませんが、お互いの納得感や合意が得られるように話し合うことが必要です。
これは非常に難易度の高い内容だと思っています。
保護者に困りが無く、教員に困りがある。または逆のパターンもあります。
通級や固定級への抵抗が強い保護者も多いですし、実際に通級や固定級が合わないというパターンもあります。
まずはお互いが相談しやすい雰囲気づくりから始めるのが定石です。
アセスメントと個別指導計画
通級教員は、学級・保護者・医療機関など子供に関わる様々な人々と柔軟に連携していく必要があります。
子どもと1対1で話すこともできてアセスメントが行いやすい環境で、困りや課題の原因を探り、個別指導計画で支援の方向性を決めることが大切です。
国語の指導
細かい内容は実際に本で確認してみてください。
ここでは本に書いてあるキーワードと支援のポイントをリスト化してみました。
- 音韻分析・音韻抽出
- 文字型のイラスト
- ひらがなの形の識別
- ひらがなの始点と終点
- パーツの組み立て
- 足りないパーツを考える
- 単語完成カード
- ことばさがしクイズ
- 特殊音節
- 漢字とイラストの一致
- 漢字の意味の確かめ
- 漢字のパーツ組み立て
- 文の要点をつかむ
- 文の構成
算数の指導
細かい内容は実際に本で確認してみてください。
ここでは本に書いてあるキーワードと支援のポイントをリスト化してみました。
- 10までの数
- 数の合成分解
- 時計
- 百玉そろばん
- コンパスの使い方
低学年の数概念が非常に重要です。
SLD(限局性学習症)
読むのがたどたどしい・単語の区切りがおかしい・行を飛ばす・勝手に予想して読む
読みの困難も様々です。いくつかの支援を紹介します。
音読音韻トレーニング
「ロケット」
音はいくつ?→4つ
「たまねぎ」
2つめの音は?→ま
「やどかり」
3つめの音を抜くと?→やどり
ワーキングメモリのトレーニング
「こたつ」
逆から言おう→つたこ
「やまのぼり・トランプ・しんかんせん・バナナ」
時間を空けて・・・4つの言葉を思い出そう
音文字変換トレーニング
〇△□
読もう→まるさんかくしかく
次は書きの困難です。
ひらがなカタカナ漢字が書けない、書き間違う、思い出せない形がとりにくいなど・・・
支援を考えてみます。
書く時のアセスメント
- 鉛筆の持ち方
- 姿勢
- 自分の書いた字を読めるか?
- 見て書く時・思い出して書く時の様子
- 紙はまっすぐ?
- マスから出ていない?
- 筆圧は?
どっちが右?
「右手をあげて」
「右手を指さして」
「どっちが右?」
点つなぎ
無料プリントがおすすめです!
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最後に計算の困難です。
足し算引き算ができない・簡単な暗算ができない・九九が覚えられない…などなど
数概念をまだ理解していない可能性が高いです。
数概念のトレーニング
- おはじきなどを順番に数えよう(いち、に、さん)
- 10の合成
- さくらんぼ計算
- どっちが多い?
ADHD(注意欠如多動性症)
本に書かれている多動性・衝動性・不注意への支援をまとめて紹介します。
- ホワイトボードでスケジューリング
- この音なんだ?ゲーム
- 飼育係をしてみよう
- 感覚統合(特に粗大運動)
- 間違い探しゲーム
- 立体四目並べ
- 豆運びレース
- アナウンサー・インタビュアーになりきろう!
- 「気持ち」の学習
- 気持ちの切り替え
- アイロンビーズ
ASD(自閉症)
本に書かれている自閉症傾向の子への支援をまとめて紹介します。
- 負けるが勝ちじゃんけん
- 時間で切り替え
- ネームコール(〇〇くん!はい!〇〇先生!はい!)
- ぬいぐるみキャッチ
- ブロック会話
- トラブル分析(教員と共同で)
- 感覚の落ち着きグッズ(お手玉・座布団・いぼいぼボール・スクイーズ)
- 助け鬼
- 共同制作
- 協力缶積み
小集団指導の工夫
教室で使える有効な工夫をいくつか紹介します。
・視覚的てがかり
輪っかやビニールテープなどを使って、並ぶ場所・座る場所・歩く場所を示してあげます。
簡単かつとても効果的な方法です。
・つまづきを回避する道具
サイコロを投げる時に箱を使って飛び出ないようにする。カードゲームでカードホルダーを使う。折り紙が動かないようにテープで仮止めする。などなど、スムーズにいく&成功体験が積める環境を作ります。
・評価の視覚化
うまくできたことを物で表します。
コイン・花丸カード・シールなどなど
その時何をすればもらえるかが、明確にします。
発言をしたら花丸
身体を向けて話を聞けたらコインなど
たくさん紹介してきましたが、他にも通級教員として気を付けることなどが書かれています。
詳しい所はまた別の記事で書こうと思います。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
著者
・月森久江さん(編者)
杉並区教育センター指導教授
・分担執筆者11名