【本紹介】保育者が知っておきたい 発達が気になる子の感覚統合

本紹介

概要

保育や小学校低学年の子で、発達が遅れているのでは?もしかして発達障害かも・・・?と思う子に「感覚統合」という視点で困り感や支援方法が解説された本です。

発達性協調運動障害(DCD)のお子さんにも有効です。

いくつかある感覚統合の本の中でもメジャーなので、気になっている方はこの本から学んでいくことをおすすめします。

初版は2014年です。

内容

感覚統合の基本

この本では、感覚統合を

感覚情報を交通整理する働き

と表現しています。

目や耳など様々な感覚から流れてくる情報を脳内で整理するということです。

この交通整理がうまくいかないと、体の動きのぎこちなさや感覚の過敏さに繋がっていくわけですね。

感覚で代表的な”五感”は視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚 の5つです。

この感覚は

どこで受け取るか?(目・耳)いつ使うか?(まさに今)どのように使うか?(特定の場所を見る・特定の音を聞く)という機能をもっています。

感覚統合で大切なのは五感以外の感覚を含めた3つの感覚です。

それは触覚・平衡感覚(前庭覚)・固有覚 の3つです。

触覚

痛みや温度、圧力を感じます。

触覚防衛反応」といって、触覚の過敏さが原因で困りごとが出ることがあります。

以下はその可能性がある例です。

  • 生活面
    散髪・歯磨き・爪切りなどを嫌がる
  • 身につける物のこだわり
    防止・手袋・お面・袖口が濡れることなどを嫌がる
  • 触られることへの拒否
    自分から触るのはOKだけど、触られるのは嫌がる
  • 触れる素材の偏り
    のりや粘土など、べっとりしてる感覚が苦手
    砂や芝生など、ちくちくしたものが苦手
    逆に、過剰に触ることもある

そこまで気にならない過敏さの場合でも、アタッチメント(愛着形成)に課題が出るということが、この本には書かれています。触れ合いの中ではぐくまれる共感性が、触れることへの苦手さで育ちにくくなり、対人関係・コミュニケーションの発達にゆがみが出てしまう可能性が出てきます。

逆に、感覚がにぶくなる「感覚鈍麻」という状態になると、指しゃぶり・鉛筆や爪を噛む・毛を抜く・性器を触るなど「自己刺激行動」に繋がります。

力加減が苦手で乱暴な行動が出たり、痛みがにぶく「痛いから気を付けよう」といった学習が得にくかったりすることにも気を付けないといけません。

関連して、聴覚の防衛反応は黒板をひっかく音の何倍も耐えられないという状態と理解した方が良いでしょう。その子によって違いますが、ピストルの音・ホイッスルの音・掃除機の音・沢山の人が居るザワザワが苦手な場合もあります。

必要なアプローチとしては
慣れさせる・我慢させるといった精神論ではなく、

歯磨きを嫌がる子には、「歯ブラシをもった子供に親が手を添えて手に注意を向けさせる」などして、感じる感覚とは別の感覚のスイッチ(識別系の機能)を入れると良いそうです。

平衡感覚(前庭覚)

揺れ、回転、加速度を感じます。よく言われるのは「三半規管」ですね。

この感覚が鈍いと読む時に字を追ったり、注意して見たりすることが苦手になり、字を書くことの苦手さにつながることもあります。

また、物を見る機能で眼球運動が未発達だと、扇風機の回転をひたすら眺めるなどの周辺視遊びが見られることもあります。自閉症の子にみられる行動ですね。

他には姿勢の崩れが出てくることがあります。バランスの感覚が鈍いことで、身体の軸の維持が難しくなります。感覚の不足を補うために、落ち着きなく動き回る・飛び跳ねる・くるくる回るといった行動が見られることもあります。

固有覚

関節の角度、筋肉の力の入れ具合、筋肉と関節の動いている状態

を感じます。

この本では、目をつむって手の上に本を載せていき、その重さで筋肉の使っている感覚を知る方法が書かれています。

この感覚が上手くいかないと力の入れ具合が苦手で、ぎこちない体使い、手先の不器用さに繋がっていきます。

複数の感覚を合わせて使う「ボディイメージ」や感覚統合に深くかかわる「脳の覚醒レベル」のお話もありますが、この記事では省略させていただきます。

園生活の困りごと具体例

どの感覚の苦手さが関わっているか考えながら見てみてください!

  • かかわり
    表情が乏しく、反応が薄い
    親と別れる時に泣かない、後追いもしない
    抱っこや手をつなぐスキンシップが苦手
    抱っこやおんぶがしづらい、しがみついてこない
  • 身支度
    ボタンのかけはずしが苦手
    ひもが結べない
    服の前後、くつの左右が分からない
    顔ふき、歯ブラシを嫌がる、襟元のタグを嫌がる
  • 食事
    食べこぼしが多い
    スプーンやはしをうまく使えない
    そしゃくやのみこみがうまくできない
    偏食
    食事中立ち歩いて落ち着きがない
  • 睡眠・排泄
    睡眠リズムが崩れている
    おむつが外れず、もらしても知らせない
    トイレを嫌がる
    便座に座るのを嫌がる
  • 集団生活
    一人で遊ぶことが多い
    集団遊びを嫌がる
    あそびのルールが分からない
    気が散りやすい
    友達が近くに来るとかんだりひっかいたりする
    1番じゃないと気が済まない、かんしゃくを起こす
  • 遊具などでの遊び
    ブランコや滑り台を怖がる
    ボール遊びが苦手
    縄跳びが苦手
  • お遊戯・リズム運動
    動きの真似が苦手
    友達と手をつなぎたがらない
    両足ジャンプやスキップができない
  • 造形
    粘土やのりを嫌がる
    お絵かきで、はじっこに小さく描く
    はさみ、テープ、折り紙などが苦手
  • 行事
    きちんと並べない
    ざわざわとしたホールが苦手
    太鼓、ピストルの音が苦手
  • その他
    爪噛み・指しゃぶり
    つま先歩きやくるくる回るを繰り返す
    腹ばいでミニカーを目の前で走らせる
    常に体のどこかが動いている
    自傷行為

実践に向けて(指導者向け)

私もとても重要視している”アセスメント”について、この本に書かれていることに沿ってお伝えします。

まずは成育歴。首の座り・指さし・人見知り・始語…などなど。私はまだまだ知識の足りない分野ですが、それでも平均の発達とどのくらいの差があるかなど、調べながら子どもの育ちを把握していきましょう。

次に「気になる行動」これが本家本丸だと思っています。どんな行動か?その行動によって何が得られているのか?どんな頻度で?などなど、いろんな角度から観察します。または、子どもと関わっている大人たちから聞き取ります。

そして知的発達のレベルを見てみましょう。字の読み書きや簡単な計算など、クイズ形式や会話の中でさりげなく、楽しいワークシートなどを通して強制感が出ないようにすると◎です!

色んな遊び

触覚へのアプローチ

感触の苦手さや特定の刺激を繰り返してしまう子へのアプローチです。

基本はタッチング。たわしなど、感触のわかりやすいもので手や足などから広い面積で押しあてていきます。

粘土遊びも良いですね。

アレンジとしては、背中に指書きをする「伝言ゲーム」や「いっぽんばしこちょこちょ」「ずいずいずっことばし」などのわらべうた。色付き糊での「フィンガーペインティング」などなど。

興味関心・発達の度合いに応じて試してみましょう。

平衡感覚へのアプローチ

眼の動き(読み書きの苦手さ)、姿勢の崩れ、揺れるのが苦手、などの子どもへのアプローチです。

基本は

回転イスでの回転刺激
トランポリンでの上下刺激
スクーターボードでの前後の刺激

ハンモックやぐるぐるバット、尻尾とりなんかもいいですね。

ボールを使ったボウリング、バケツキャッチ、的当てなんかのゲームも楽しみながらできます。

ボディイメージへのアプローチ

不器用、運動が苦手な子へのアプローチです。

さきほどの触覚と平衡感覚のあそびに加え、ジャングルジム・鉄棒・滑り台などの固定遊具遊び、トンネルくぐり、動物のまねっこ歩き、写し絵になぞり書き、積み木やジェンガなんかも良いですね!

日常のお手伝いの中では、雑巾がけや洗濯ものたたみ、配膳、イスやテーブル運びなども有効です!

著者

・木村 順さん
作業療法士

・小黒 早苗さん(協力)
保育士

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